高河ゆん先生 × 峰倉かずや先生 × 杉野編集者
代表作
「LOVELESS」 言葉(スペル)を駆使して戦うラブストーリー!
代表作
「最遊記」シリーズ「西遊記」をモチーフにしたスタイリッシュアクション!
高河ゆん先生・峰倉かずや先生の
担当編集
「月刊コミックZERO-SUM」初代編集長
※今回は編集者の杉野も参加しております。
そういえば峰倉先生はCDやMDを自分で編集して、ジャケットを作成するご趣味がありましたよね。そういうのを見ると作家的だなと思います。
クリエイター気質なんですよ。
違うんです、趣味がないの!
ジャケット作りが趣味なのでは(笑)。
誰かと一緒に楽しむのではなく、内なる趣味なんですよね。テーマ別に曲順を自分で考えてジャケットから全て作ってみたり。近所のレストランを探索して、食べログ感覚で自分用のマップを作ったりもしています。デザイン組みの勉強にはなります。話がどんどん逸れてますけど、当時から杉野さんとはちゃんとした漫画の内容の打ち合わせをしたことってなくないですか?
「こんな内容の話を描きましょう」という話はしていないと思います。そもそも高河先生や峰倉先生のように作家性の強い作家さんは描くものが自分の中で既に決まっているから。その中で不安があったり、二つの選択肢のどちらかで悩まれたりしている場合は相談に乗りますけど、そもそも編集者が言った内容で描くような作家でしたらこんなに苦労はしていないし、こんなに面白い作品はできないですよ。
それはそうですよね。
峰倉先生に「うちの三蔵はそんなこと言わない」って言われたことがあるんですよ。でもその反応は作家として正しくて、峰倉先生の中で生きている三蔵を描いてくれれば良いんです。それを僕が「こうなんですね」と引き出すことは不可能で、「三蔵がここでこの敵を撃って…」と言っても全く意味がないと思うんですよ。
意見は言っても良いですけど、きっと聞かないですよね。
たしかに。
打ち合わせで僕が何か提案することがあっても、言うだけなんですよね。それで「そんなことはやらないけどな~」と言いながら描き始めてくれれば良いんです。描き始めることが重要なので!
そういえば『最遊記RELOAD』で杉野さんの案を一つだけ使いましたね。
どこですか?
コミックス4巻に収録されている「悟浄&八戒の章[中編]」で八戒が悟空の家庭教師をしているシーンです。「家庭教師ってどういう風に何をすれば良いんだろう?」と雑談していたら、杉野さんの案でミカンを並べることになったんです。それだけなんですけど、そこからラストの「みんなで食うから!」のセリフを思いついたので、ミカン案ひとつでも重要なんです。
使っていただけて嬉しいです(笑)。
あとは…、大抵どうでも良いような話をしていましたよね。
そうですね。それでどこかで「さぁ描くか」と思ってくだされば、僕としては問題ないです。例えば「八戒の眼鏡が割れたら格好良いですよね」と言ったことがあったのですが、それは僕から「八戒の眼鏡を割ってほしい」という要望ではなくて、いつかどこかで「ここで眼鏡を割ろう」という発想のキッカケになってくれれば良いんです。
大体どうでも良いようなことがハマったりしますからね。私の場合は、場面と場面の繋ぎだけが思いつかないことが多いので、そこで躓いてしまって描き始めることができない時は「とりあえず100個くらい何か適当なこと言って」と杉野さんにお願いしていました。その中に一つくらい使えるネタがあるかもしれないですから。
私も基本的に「杉野さんのアイディアは全部不採用」と思って描いています。編集さんが思いつくネタは、普通のネタが多いですから(笑)。
逆に高河先生はテンションが上がりすぎると変なことを考え出すんですよ…!
何度かストップをかけていただきましたね(笑)。でも杉野さんには本当に感謝しています。漫画家が締め切りを破ることは日常茶飯事じゃないですか。特に漫画家は時間にルーズだったりしますが、自分が約束を100万回破っても、杉野さんは絶対に守ってくれました。
杉野さんは約束だけは絶対に守りますよね。意図して約束を破ることは絶対になかったと思います。
私も長年描いていて、様々な編集さんとお付き合いさせていただきましたが、約束を破る編集さんとは続かなかったですね。
たしかに約束を破るのと嘘をつくのは無理ですね。
ですよね。でもこっちは破ってるんですけどね(笑)。
無理矢理感がありますが、褒めてくださりありがとうございます(笑)。ちなみに「ZERO-SUM」関係で思い出す面白かったことってあります?
やっぱり創刊の時ですかね。
そうですよね、私も思っていました。
社名も雑誌名も、何も決まっていませんでした。
誌名を決めるところから始まりましたよね。
そこから…20年ですか? ずいぶん経ちましたねー。いろいろご迷惑もお掛けしました。
お二人は天才ですから。原稿が遅いというだけで。でも原稿の遅れをどうにかするのが我々の仕事なので、原稿が遅いのは仕方がないことですから。
今「原稿が遅い」って何回言いました?
でも実際、雑誌に載ったら先生たちの勝ちじゃないですか。負けた場合は載せられないので。本当にお二人とも稀有な才能をお持ちだと本当に思っています。編集は作り手側の思考を持っている方もいらっしゃいますが、先生方と話していると「あぁ、僕はクリエイターではないな」と実感するんですよ。先生方は誰にも思いつかないような発想をされますし、それに執念深いんですよね。「もう良いのではないですか?」というところまで、徹底してこだわるんですよ。
我々が執念深いのではなくて、杉野さんが薄いんですよ! 編集という立場もありますし、教養もあるし、賢い方ですが、これは「魂」の話なんです。
わかります。
だから杉野さんはどんなに知識があって、浅く広く物事を知っている素晴らしい人間であったとしても「オタク」ではないんです!
高河先生は僕のことをずっと「杉野はオタクじゃない」と言ってきますよね。
その薄さでなれるわけないじゃないですか。
たしかに杉野さんはオタクではないですよね。
記憶することと収集すること、この二つができないとオタクにはなれないと思っているのですが、違うんですか?
違います。「魂」です。
「魂」が入っていないですね。言ってること薄っぺらいんすよこの人。
例えばですね、私は昨日仕事で神様っぽい絵を描いていたんです。装飾などもたくさん付けて「あ、なんかロンギヌスの槍をモチーフにした感じの模様になっちゃった!」とフッと思って。
それって濃いんですか!?
単に覚えるのではなくて、自然と出てくるほど身体に刻み込まれているって事では?
なるほど…!
でも杉野さんの条件で言うなら、私はオタクではないですよね。何も収集とかしていないし。
CDをたくさん買っていたじゃないですか(笑)。
当たり前すぎて自分が収集していたことに気付いていないパターンですね。
あれは買い集めてるのか…。当たり前すぎて感覚がおかしくなっていました。
でも編集さんは普通の人間であるべきですよ。そうでないと社会で生活できませんし、編集さんは我々漫画家と社会を繋ぐ接点なのですから。
漫画家は社会生活がある程度できていなくてもどうにかなりますね。
できていない人の方がほとんどですよ。
そこを代わりに何とかするのが編集の仕事ですから。だって、高河先生から「あのさ、エッチなことをすると耳と尻尾が取れるキャラどう思う?」といきなり電話がかかってきたことがあるんですよ。『LOVELESS』の設定の話だったのですが、突然すぎて「セクハラですか?」と驚きました。
当時その話を杉野さんから聞いていたのですが、衝撃的でした。「高河先生がこんなこと言ってきたんだけど、どう思います?」と言われたので「天才っスね」と返しましたよ。だって普通は思いつかないじゃないですか。その設定を聞いて「じゃあこういう状況はどっちに含まれるんだろう」とか、色々考えちゃいました。
キャラクターに耳を付けるまではよくある話なんですけど、「尻尾と耳が取れる」という発想って普通は出てこないですよね。作家さんはやっぱり違うなって思いますよ。
本当に。そこを「凄いですね」って褒めるのも複雑ですけど(笑)。
逆に反対されたいというか、「何ですか、それは?」という反応が欲しいのかなとも思いますよね。誰も考えつかないようなことを出してきますから、高河先生にはいつも驚かされます。
他人の意見なんて関係ないですからね。
カッコイイ…!
そういう峰倉先生だって「三蔵一行がジープで旅をしている」という設定も珍しいですよね。
そうですか? 「軍用ジープ、カッコイイじゃん」というノリですね(笑)。
それと三蔵のキャラクターデザインが凄く良いと思っていて。全員素敵なのですが、三蔵は特に目を惹くものがありますよね。まず、誰が描いても描いた瞬間に『最遊記』の三蔵だとわかるデザインなんですよ。「『最遊記』の三蔵」と言われたら、あのコスチュームで銃を構えている画が出るじゃないですか。
作品の象徴ではありますよね。銃を構えて煙草を咥えて、目つきが悪くて。
普通、そんな三蔵います?
お経は一応お坊さんだから読ませましたけど(笑)。
女子の好みの男性像を変えたのが三蔵ですよね。それまではもっと体格が良くて目の大きな主人公が多かったんですよ。
王子様っぽいキャラクターが人気でしたね。
そうです。でも目つきが悪くて体型も細い三蔵は、当時革新的なキャラクターだったんですよ。
三蔵はチンピラ系ですしね。
しかも、チンピラっぽいキャラクターだと思っていたのに、なんだかんだ言って仲間想いなところもあって。こんなのズルいですよ!
先生方はキャラクターをデザインするにあたりどんなことを意識されていますか?
『最遊記』のようなファンタジー作品は結構考えます。シルエットで遠目で見た時にも判別がつくようにとか、動いた時に見栄えがするようにとか。でも私はゴテゴテに着飾るのが好きではないので、華美にはしていません。逆に『WILD ADAPTER』のようなファンタジーでない作品は、見た目をなるべく普通にして目立ちすぎないように一般人に紛れ込めるギリギリにしています。中身が一般人でないから、逆にビジュアルに特徴を付けない方が丁度良いんです。
なるほど。
ただ私がゲーム好きなこともあり、コスチュームは格闘ゲームのキャラクターの衣装を参考にしていたりします。格闘ゲームのキャラクターのビジュアルは、動くことを前提に作られているのでとても参考になるんですよ。
私はそのキャラクターに最もふさわしい外見や、コスチュームで描きます。「何がそのキャラクターに一番ふさわしいか」というのは作者である私が一番知っているので、実際私が描けば何でもOKみたいな感じなんですけどね。
高河先生はキャラクターの設定とビジュアル、どちらを先に作られますか?
中身がないと私は何も描けないので、ルックスから入ることはあまりないですかね。でも設定とビジュアル、同時多発的ですよ。
私の場合は「こういうキャラクターにしよう」とぼんやりしたものを絵で描いていって、なんとなくビジュアルが自分の中でしっくり来る瞬間があるんです。それでその絵を見ていると、どんどん設定が塗り重ねられていく、みたいな。
これも峰倉先生と逆ですね。私はキャラの中身がないとデザインができないタイプで、先に中身のパターンをいくつか出していって、「こういう性格だからこの服を選ぶ」という描き方です。でもイラストだけなら性格まで深くは考えないですよ。「こういうタイプのキャラを描きたい」と思ったら全部イラストに落としこんでいる気がします。
そうなんですか!
ストーリーや台詞を考える時もお二人は違いますよね。峰倉先生は「自分が映画監督としてキャラに指示を出していく」イメージ。逆に高河先生は「登場するキャラ一人一人と面接して、話し合って作られる」イメージなんです。でも実際どちらも頭がおかしいですよ!(笑)
作り方は違いますが、どちらもキャラクターがバーチャルにいる感じなんですね。
そうですね。それに私は峰倉先生の文章力と構成力の高さも尊敬しています。4月の『最遊記FESTA2022~シリーズ大原画展~』でミニドラマのシナリオを書かれましたよね? 凄く良かったです!
ありがとうございます!
峰倉先生はフェスやイベントで、ミニドラマのシナリオを書かれているんですよ。その内容が毎回良くて。それは作者だから当たり前とかいう以前に、内容が面白いし、構成もわかりやすいんです。
脚本家になりたかったので、シナリオを考えるのが楽しいんですよ。それに自分の作品だから好きにできるというのも大きいですよね。実は私、「1度で良いから『仮面ライダー』のシナリオを書いてみたい」と昔思ってました(笑)。
えー、私は書きたくない~(笑)。
特撮好きなので、戦隊モノとかも「書いてみたい!」と思う時があったんですよね。
そういうのはこういう対談やインタビューでどんどん言った方が良いですよ。どこかで繋がって叶うかもしれませんし!
それは自分のオリジナルではない作品でやってみたいということですか?
そうです。でも私は自分の体力に限界があるので、他の仕事はお話をいただいても今は基本、全てお断りしているんですけれど。
一度きりの人生なんだからやりたいことをやって良いんですよ。みんな許してくれます。
いえ、今ある作品を大事にしてお客様に届ける事に、私の限りある体力は全て使いたいので。それすらもろくにできていないので悔しい状況ですし。
峰倉先生はこういう方なんですよ。読者に対して誠実で、誠意がありますよね。
「ZERO-SUM」が創刊から20年経ちましたが、今でも作家としてお仕事をしていると当時から想像していましたか?
まったく思っていなかったです。
あまり考えたことがなかったですね。
本当に失礼な話ですが、「ZERO-SUM」が20年も続くなんて想像していなかったですし。でも今の時代、20年続く雑誌はなかなかないですからね。凄いことですよ!
そうですよね、創刊の時に「とりあえず10年は頑張ろうね」という目標でスタートしたんですよね。
20年という月日は恐ろしいですよね。
恐ろしい。それに50歳を過ぎたあたりから絵のクオリティも落ちてしまう気が…。。
そういう高河先生は全然絵に老化がないですよね。
高河先生は頭の中があまり大人になってないんですよ。
失礼ですね!(笑)
でも「新しいモノを取り入れつつ、自分の個性を殺さないで描く」というのは、決して簡単にできることではないので、本当に凄いなと思っています。高河先生の絵を今の若い人たちの絵の中にぶっこんだとしても年齢差を感じさせない絵柄ですよ。
峰倉先生の場合は、時代と共に絵も進化し続けていますよね。
本業の漫画とは別に、「ZERO-SUM」では他の作家さんとのコラボも時々ありますよね。以前、峰倉先生は『神クズ☆アイドル』のイラストも描かれていました。
お仕事上でのコラボイラストは、とても緊張します。
凄く良かったです!
最近『虫かぶり姫』や『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』も応援イラストを描かせていただきましたが、その作品のファンの方たちが嫌がるものは絶対に描いちゃダメだという想いと、読者がこの作品に何を求めているかを理解しないと描けないと思っているので一生懸命読み込みました。
それは凄く真面目と言うべきか、高河先生と視点が違うと言うべきか。逆に高河先生は自分が好きなキャラクターを描きますよね。
キャラクターのセレクトに関しては、あまりファンの反応を気にしてないですね。
コラボイラストは、その作品のファンが見て解釈が一致するのがベストなのだろうと念頭においてお仕事します。
それは私も最低限は意識しますね。解釈の一致はコラボイラストあるあるですけど、それが難しいんですよね。
そうなんです。自分の作品であれば解釈を間違えることは絶対にないけど、他人様の作品ですから緊張しますよね。ですからただ読んで描くだけではダメなんです。
キャラクターを間違えないのは当たり前ですが、「こんなことはやらない」「こんなこと言わない」とか。その作品のファンに「これ違うよな」と言われたら大敗北ですよ…。
それに作品の持ってる雰囲気を壊さないようにというのもありますね。
あとはキャラクター同士の関係性とかでしょうか。キャラが身に着けるコスチュームは絶対に間違えられません。
それでは、最後に読者や作家さんに向けて伝えたいことはありますか?
「ZERO-SUM」の創刊からいる作家の一人として、20年間愛していただいて、本当にありがとうございました。どんどん若い作家さんや新しい作家さんが入って、雑誌を盛り上げてくださっていますので引き続き見守っていただけるとありがたいです。
そして峰倉先生には高い壁として、若い作家さんたちの前に立ち塞がっていただいて…!
後輩の作家さんたちを素直に応援したい頑張ってほしい気持ちもありますし、同時に同じ雑誌に載る以上はライバルでもあるので「潰してやる!」くらいの気持ちにもなるんですよね。「心がふたつある〜(byちいかわ)」な感じで複雑ですが、作家としては後者の気持ちで描かないと恐らくダメなんでしょうね。それに年を取ったせいか、普通に頑張ってる人たちを見ると感動して泣けてしまうんですよ(笑)。逆に何か事情があって頑張れない人を見ても「無理しないで自分のペースで良いんだよ」と思って涙が出てくるんです。年寄りはすぐ泣く。
私の場合は、描けていないので「頑張ってね」なんて軽々しく言える立場じゃないんですよ。描いている人が正義なんで!
今頑張っている作家さんに先輩からアドバイスはありますか?
「とにかく身体に気を付けて」「無理だけはしないで」と、正直これしか言えないです。ただ、作家として若いうちは「無理をしないといけないタイミングもある」のもたしかなんですよ。時代は変わりつつありますが、それでも若いうちだから無理ができるんですよね。それに何に対しても波に乗るにはどうしたって無理をしないといけない瞬間が絶対にあるのですが、それでもリミッター外しすぎには気をつけてほしい。確実にしっぺ返しが来るので。
力技で自分の体力、気力で仕事をねじ伏せていくよりも、やはり早いうちに最適化を目指して環境を整えることが、結果的には長く作家活動ができるのかなと思います。それをしなかったばかりに身体に無理がきたり、毎日徹夜したりと自分の首を絞めることになるので、パフォーマンスを上げるためには効率化を優先することも大切ですよ。
若いうちはそれに気付けないんですよね。それこそ私たちと同じで、10年先、20年先のことなんて考えている人なんてほんのわずかですから。無理はその場ではできるかもしれませんが、絶対後悔するんですよ…!
そうですね。今、過去を振り返って言うならそれですね。
昔の作家さんに比べて、今の若い作家さんの方が断然要領は良いと思うんですよ。でももう少し改善できる部分があると思うので、使える物はフル活用して、長く続けていってほしいなと思いますね。
若い読者や若い作家からしても、20年前の創刊当初から描いてくださっていた先生方が元気でまだ描き続けてくれていれば凄く心強いと思います。これからも高河先生や峰倉先生には、大きな壁として立ちはだかっていただけたら良いなと思います!
公開日:2022.12.09