INTERVIEW スペシャル対談

ゼロサム創刊20周年記念!スペシャル対談 第4弾 前編

高河ゆん先生 × 峰倉かずや先生 × 杉野編集者

ゼロサム創刊20周年記念!スペシャル対談 第4弾 高河ゆん先生×雪広うたこ先生
高河ゆん

高河ゆん先生

代表作

「LOVELESS」 言葉(スペル)を駆使して戦うラブストーリー!

雪広うたこ

峰倉かずや先生

代表作

「最遊記」シリーズ「西遊記」をモチーフにしたスタイリッシュアクション!

雪広うたこ

杉野編集者

高河ゆん先生・峰倉かずや先生の
担当編集

「月刊コミックZERO-SUM」初代編集長

※今回は編集者の杉野も参加しております。

高河先生、お久しぶりです。

お久しぶりです、峰倉先生とお会いするのは4月ぶりかな?

4月の『最遊記FESTA2022~シリーズ大原画展~』以来ですね。でも私がてんやわんやしていて、せっかく来てくださったのにあまりお話ができなかったんですよ。

そうですね。でも私は峰倉先生の絵が見られるチャンスがあれば絶対に逃さないので!

峰倉先生のラフやネームなども展示したので、作品制作の過程も見ることができましたね。高河先生はとても熱心に会場を2周されておいでで。

私も一昨年開催された『高河ゆん個展2020「夜明けの森で会いましょう」』に行かせていただきました。

「LOVELESS」第8巻より
「LOVELESS」第8巻より

漫画家さんは他の作家さんの原画をご覧になるのがお好きな方が多いですよね。

普通に気になりますよ。でも峰倉先生のネームは95%くらい完成されているので、もはやラフとかネームのレベルではないんですよ。非常に綺麗に描かれていますよね。

原稿とラフの境目がわからないくらい細かく描かれますね。

漫画家さんの性格の違いもありますよね。峰倉先生は凄くきちんとしたラフを描かれますが、私の場合は「まるかいてちょん」です。

私も一時期、特にスケジュールが詰まりすぎていた時は「まるかいてちょん」で描いていましたが、後々自分を苦しめることになるんですよ。

そうなんですよね。最初からきっちり描きこんだ方が、後が断然楽なんです。でもセリフが走ってしまうと絵が追いつかなくて「まるかいてちょん」になってしまうんですよね。

先に楽をするか、後で楽をするかのどちらを取るかですよね。私の場合は「まるかいてちょん」だと、キャラの表情が上手く決まらないこともあって…。

ネームの段階で画面レイアウトを作っておきたい作家さんは最初から綺麗に描くイメージがあります。

そうですね。『最遊記』はアクションが多いので、レイアウトをカッチリ決めておかないとペン入れに移れないんです。だからどうしてもネームが細かくなってしまうんですよね。それに最初から決まっていた方がアシスタントさんへ指示も出しやすいですから。

「最遊記RELOAD BLAST」第2巻より 「最遊記RELOAD BLAST」第2巻より
「最遊記RELOAD BLAST」第2巻より

でも峰倉先生の場合は、ストーリーは文章で書いていたりして先に固まっているじゃないですか。だからきっとその後の「絵を描く作業」というのが、カメラワーク的な作業なんですよ。

おっしゃる通りですね。何故か本人である私より、高河先生の方が私に詳しい(笑)。逆に高河先生はどのように描かれているのですか?

常に「まるかいてちょん」です。後から思い出せるように、口だけは描いて表情だけを表現する感じです。

先にプロットなどは作られないのですか?

メモ程度の物を作ります。

担当としてはそのメモも見たいのですが「絶対に見せない!」と言われていたので、僕は中身を一度も見たことがないんです。小さな手帳にたくさんお書きになってますよね。

ネームの初期段階から結構セリフが変わったりもしますよね?

変わるというよりは、「捨てる」ですね。メモに書きなぐって並べて、それをパズルみたいに組み替えて入れ替えて…を繰り返す感じです。その後はすぐに絵コンテに入ってしまうので、セリフが変わると後々困ったりはします。

ラフを受け取る段階で男性か女性か、老人か若人かわからずに「このキャラの見た目は怖い人ですか?」と聞いたら「私が美形じゃないキャラを描くと思っているんですか?」と怒られたことがありました (笑)。

私も言ってみたい!

「最遊記RELOAD」第9巻より
「最遊記RELOAD」第9巻より

私は作画の工程では下描きが嫌いなんですよね。最終的に消さなくちゃならないので…。峰倉先生はいかがですか?

私は下描きの方が好きです。ペン入れは「何で一回描いたものに再度ペンを入れなくてはいけないんだ!」と思っていて。だから高河先生と「下描きが好き、嫌い」というところは逆ですが、感覚は一緒。要するに同じ絵を何回も描かせるなよってことですね。

そうそう、同じ理屈ですね!

高河先生は、締め切りに追いつめられると下描きしなくなって、最初から直接ペンで描き始めますよね。

意外と最初に描いた絵が一番良かったりするんですよ! ネームで一生懸命表情を作り込んで、いざペン入れをしてみると「ネームの方が良かった」みたいなこともあって。そうなると本当に悔しくて…。

1回目の方が良かったというのは「漫画家あるある」だと思うのですが、峰倉先生は2回目のペン入れも良いじゃないですか!

凄い、褒めていただけた! でもやはり高河先生のように「一発で全部出し切る」方が良い場合もあるんですよね。高河先生のお話を伺っていると、その時のご自分のセンスと感性を優先して描かれていらっしゃる感じがします。私はどうしても頭で考えてしまって、ペン入れは作業のような感じになってしまうんです。

そういう意味では、漫画の描き方が私と峰倉先生は全く違いますね。私はとにかく線を減らして描いているけど、逆に峰倉先生は信じられないくらいの線の数で描かれるじゃないですか。

絵を描く人間はみんなわかっていると思うのですが、線を減らすことがどれだけ難しいことか…! 漫画を描くことも、絵を描くことも、どれだけブラッシュアップして洗練していくかということが大切なんですよね。私は自分で描き込みすぎるのをやめたいと思いつつ、描き込みすぎてしまうタイプなので高河先生が本当に羨ましいです。でも、だからと言って真似もできないんですよね。

「LOVELESS」第12巻より 「LOVELESS」第12巻より
「LOVELESS」第12巻より

でも本当に峰倉先生の線の数は素晴らしいんですよ!

いやいや、減らしたいんです。時間だってかかりますし…。

峰倉先生の恐ろしいところは、例えば一つの絵を100本の線で描いてしまったら、次も絶対に妥協しないで100本で描くんですよ。漫画家さんも人間ですし、時間がなかったり疲れていたりと、何らかの事情で絵が崩れてしまうことはあるじゃないですか。でも峰倉先生は手を抜くってことを絶対にしないんですよね。

違うんです、手を抜くのはもう私もやってきたんですよ…! 特にTVアニメ『幻想魔伝 最遊記』が放送されている時期は本当に忙しくて、「できるだけ手を抜いて量をこなす」という方法をとっていたのですが、その時期の絵が本当に悲惨で凄く後悔したんです。グッズに流用したくないと思うほど、二度と世に出したくない絵を量産してしまって。だから、完成度だけはある程度保っておかないと、後で面倒なことになるということを学びました。

そうか、みんな経験あるんですね。

峰倉先生は自分に厳しい方で以前、「腕が腫れている」と聞いて様子を伺いに行ったら、弾けるのではないかと思うほどパンッパンに腫れていたんですよ。にも関わらず仕事をされていた時があって、本当に驚きました。

我慢強すぎる…。

高河先生は本当に時間が無くなると筆ペンで描かれますね。印刷上は問題はないのですが、ずっと腕を浮かして描いているからより負担がかかって、腱鞘炎にならないかと心配になりますよ。

でも、それも漫画家としての技術ですよね。

締め切り間近に「たくさん筆ペンを買ってきて」と言われたことがありました。ペンのブランドも決まっていて「この筆ペンじゃないと描けないから」と。それで下描きもせず、筆ペンでペン入れを始めるんですよ。

時間がない、忙しい時の話で言うと、30年くらい前かな。物凄く忙しくて、何日も徹夜していました。当時は気力で乗り切っていたつもりですが、後々気力だけでは不可能だったのだと気が付きました。あの頃は若くて体力があったからこそ徹夜できたんですよね(笑)。

体力と気力はどうしても繋がっていますから。

そうなんです。若い頃は「気力で体力を補える」と思っていたのですが、それは間違いでしたね。あくまで体力があってこそ、体力で気力を補うことができるんですよ。今では、あまり気力で補うのではなく、体力を落とさないよう意識するようになりました。

高河先生は20代の時からエナジードリンクや栄養ドリンクがお好きで…。

ドーピングです(笑)。やっぱりカフェインは効くじゃないですか!

私はカフェインが全く効かないタイプなんですよ。締め切りが迫る中、風邪を引いてしまったので仕方なく1瓶数千円もする高い栄養ドリンクを買って飲んだのですが、20分後に爆睡してしまいました(笑)。

全く効いてないですね!?

1ミリも効きませんでしたね。

そういえば当時、締め切り直前の高河先生に「○○という栄養ドリンク買ってきて」と言われたので、僕は気を遣ってもっと高いドリンクを買っていったんですよ。でも高い方はお気に召さなかったようで…。

ブランド指定があるんですよ!

杉野さんの気の遣い方って、彼氏や旦那が「何で言った物買ってこないの!」って怒られてしまうお決まりのパターンじゃないですか(笑)。

まさにそれですね。

「LOVELESS」第9巻より
「LOVELESS」第9巻より

でも、やはり健康は漫画家にとっても礎ですよね。

健康面で何か気を遣われていることはありますか?

寝る!

寝る!

昔と違ってもう無理ができないんですよ。「無理ならやめる」もしくは、「最初から無理と言う」ようにしています。

それが良いと思います。身体に無理させるのは、20~30代くらいの作家さんに任せておこう(笑)。

そうですね。特に女性は35歳くらいで急にガタガタガタっと来ることも多いですし。

多いですね。みなさん20代の時に無理をしてしまうんですよね。

たしかに。だから少し早めに来る人もいるのではないでしょうか。

そういえば20代の頃は、30歳まで漫画を描いていると想像すらしていませんでした。

私もです。

お二人とも短距離走的な描き方をされていたから…。でも今では70代になっても描いている作家さんもいらっしゃいますし、漫画も長く描く時代になりました。

でも最近、視力が落ちて小さな文字が見えない問題が出てきたんです。文庫本とかも電子書籍で買って、拡大して読んでます。

現代の技術でたしかに生活は便利にはなりましたが、逆に作家も引退し辛くなりましたよね。例えば、見にくいから絵が描き辛くなったとしても、今は「デジタルで拡大して描けば良いじゃない」という考えになってしまいますから。

たしかにそうですよね。視力が落ちて細かいところまで描きにくくなったことで、引退をお考えになった漫画家さんも昔は結構いらっしゃいました。でも最近恐ろしいことに気付いたのですが、私の場合は見えないところは勘で補って描いているっぽいんですよ。

そうなんですか!?

鮮明に見えていないのに「このへんだな」みたいな感覚で描いているんです。

それは完成した後に気付くのですか?

実際にペンを動かしている時はよく見えていないのに、仕上がりを見ると一応は違和感なく描けている感じです。

凄いです、それって培った経験則ですよね。

きっと峰倉先生もできますよね。私の5万倍くらいは線を引いているはずですから。

そんなことはないです、高河先生は描いている分量が桁違いすぎます! でも「勘で描く」は、自分の感性を信じていないとできないと思うんですよ。私はどちらかというとバランスが取れているかなと疑心暗鬼になるタイプで、病気を患い手術をしてからは特に怖いんです。ですので描いた絵を何度も見返して、さらに一晩明けてからもう一度見直したりしないと安心できないんですよ。

峰倉先生は目をつぶってても描けると思っていました。

そんなことないです! でも商業で描いている以上は締め切りが優先なので、ある程度の妥協も必要なんですよね。

どうしても〆切はありますから。今は「ゼロサムオンライン」等である程度は融通が利くかも知れませんが。

読者側の意識も変わってきましたよね。雑誌で載っていないとなると読者は凄くガッカリしますが、オンラインだと「あぁ、遅れたんだ」と少し優しくなれます。でも雑誌でもオンラインでも、読者と漫画家の心の規約がある以上は可能な限りガッカリさせたくないですよね。

そうですね。ただ本当に病気で休んでる作家もいることは、わかっていただきたい…!

注意書きを「作家の都合により」へ変更したり、交代で休むルールを取り入れたりする雑誌も出てきましたね。

特に週刊連載は「休ませてあげなよ」と思ってしまいますよね。

でも逆に漫画家にも有利な話はあって、普通の会社だと納期を過ぎたら契約違反じゃないですか。

昔、真剣に「締め切りが1日過ぎるごとに原稿料から1000円ずつ引くのはどうでしょう」と考えたことがありますよ…。

そんなの無駄ですよ。「え、1000円払えば良いの!?」とか言ってさらに守らないから(笑)。

「先に3000円渡すから3日分延ばして!」とか私なら絶対に言う(笑)。

そうなりますよね…。そもそも先生方はどうして漫画を描こうと思ったのでしょうか?

「最遊記RELOAD BLAST」第2巻より
「最遊記RELOAD BLAST」第2巻より

やはり漫画を読むのが好きだったからです。私は描くより読む方が好きで「世の中にはこんなに面白い漫画を描く人がいるんだ」と感動して「私もやってみよう」と思ったのが始まりです。

私は中学生の時に小説家を諦めたからです。若いのに小説の賞を取った人たちを見て「自分にこれは書けない」と思ったんですよね。

漫画家を諦めて小説家になろうという人の方が多いように思うのですが、峰倉先生は逆なんですね。

何故か絵ならまだ描けそうだなと思ってしまったんですよ。

結果としては正しかったのですが、他の人からしたら納得しにくい話ですよ。

本当は実写の仕事に就きたかったんです。だから高校では演劇部に入って脚本を書きたかったのに、脚本は在り物か先生が書く決まりだったらしくて、そこで顧問の先生と大喧嘩してすぐに辞めてしまいました。

私も学生時代に文化祭のお芝居で脚本書きましたよ。普通のラブストーリーだった気がします。

学生時代と言えば、高河先生は高校2年生を2回されていますよね…? 修学旅行に2回行かれたとか。

お得じゃないですか!

そうなんです。「もし留年するなら高校2年生が良いですよ」説を私は推しています。修学旅行に2回行けるので。

翌年ということですか?

そうです。高校を4年かけて卒業したということですね。私の通っていた学校は留年する人が多かったんですよ。ただ留年すると大抵の人は恥ずかしがって辞めてしまうんです。でも私は何故か全然気にならなくて「修学旅行に2回行けるのでは!」と思っていたくらいでしたね。でも当時、父は私が留年したことにショックを受けて「もう学校に行かないと言い出すのではないか」と思ったらしく「学校に行くのが辛かったら、お父さんの田舎に引っ越しても良いんだぞ」と言われたのは覚えています。でも私としては、田舎に行きたくなかったので2年生を2回やることで留まりました(笑)。でも2回目を経験したことで色々と発見もあったんですよ。まず修学旅行は全く同じです。

そうなんですか!

都立の進学校だったので毎年同じことやるんですよね。それに学校の先生は毎年全く同じ授業をやっています。何ならジョークも一緒です!

凄い、タイムリープ物の主人公のネタに使えそう(笑)。

とても楽しかったし、それに友達も2倍できますからね。

それが凄いですよね。普通は気まずくて、2回目は友達なんて作れないですよ。

きっと高河先生のコミュニケーション能力が異常に高いからですね。

あの時は全然恥ずかしくなかったんです、何だったんでしょうね…。

その頃は既に同人誌を描いていたとのことなので、校外にも友達がたくさんいたからじゃないですか?

でも学校でも友達は作っていましたよ。だって修学旅行に行ったら一緒に行動しないといけないじゃないですか。

「LOVELESS」第12巻より 「LOVELESS」第12巻より
「LOVELESS」第12巻より

そうですけど…。でも既に高校生の時には、自宅以外にアパートを借りて作家さん仲間と同人誌を描いていましたよね。きっと、その頃から高河先生にとっては学校外の方がメインだったんですよ。

それなら学校に行かなくなりますね。

それに専門学校も数か月で辞めておいでとか。

仕事に繋がるということで専門学校に入学したんです。でも通う前から既に作家として仕事をしていたので、そうなると行く意味がないじゃないですか。それにその学校の先生が友達だったんですよ。

凄い!

専門学校を卒業した人が先生として戻ってくることがあるんです。それで授業が始まったら友達に「何でいるの?」という顔をされて。

たしかに私が先生で高河先生が生徒として在籍していたら嫌だなぁ…。「もう帰れよ」と思う(笑)。

そうなんです。「あなたに教えることはない」と言われてしまいました。

漫画を描き始めたのはいつ頃ですか? 『最遊記』の設定を中学生の時から練られていたと聞いているので、恐らく峰倉先生の方が早いですかね。

今でも小学校の時に自由帳に描いた漫画が残っていますよ。

自由帳まで行けば私も小学生ですよ(笑)。

ストーリー漫画ですか?

そうです。

私も中学3年生の時には完全にストーリー漫画を描いていましたよ。

僕が高河先生の名前を初めて知ったのは『ファンロード』というアニメ雑誌の読者投稿コーナーだった気がします。

それは中学2年生の時くらいかな?

恐らく。その雑誌のバックナンバーを見ていたら「これ高河先生では?」という投稿をいくつか見かけましたよ。その雑誌には、今ではプロとして活躍されている方も結構いらっしゃって面白いです。

私もその雑誌の『最遊記』の特集の号は取ってあるのですが、後々アシスタントの方が「この号に私が出したハガキが載っています」とのことで、見たら本当に載っていたんですよ。

「最遊記RELOAD BLAST」第3巻より
「最遊記RELOAD BLAST」第3巻より

峰倉先生のデビューのきっかけは?

さっきから高河先生のお話が破天荒すぎて、私の話は凄く地味なんですよ…。

そんなことないですよ!

私は就職活動として漫画を描きました。高校2年生で会社に就職しないことに決めて、その代わりに「親に実績を見せておかないと」と思い、漫画を描いて投稿して、そこで賞をいただいてデビューに至りました。「これが私の就職活動です」というのを一応形だけでも親に見せておくためです。

初めて描いた漫画で賞を取ったということですよね?

そうです。

全然地味じゃない!

授賞式に物凄く優しい方がいて「若い女の子がちょっと泥臭い感じの漫画を描かれるのって結構貴重だと思いますよ」のようなことを言ってくださったんです。感動して名札を見たら、永井豪先生でした。

最初に出会った方が巨匠すぎますよ!

でもその次にお会いした漫画家さんでビビったのは高河先生ですよ。

またまた。

編集部のパーティで杉野さんが高河先生と引き合わせてくださったのですが、会った瞬間に「あ、私この人に勝てない」と感じました。私は基本的に漫画を読まないのですが、高河先生の作品は知っていましたし大物の方だと存じ上げていました。少年漫画で、会った瞬間にビリビリビリッとなる表現があるじゃないですか。そういうのを現実でも感じて。それに一緒に来ていたアシスタントさん3人も、先生のファンでガチガチに緊張していたみたいです。

いやいや!

経験値なども含め「絶対にこの人と戦って勝てない」と思いました。

そんなことはないです。それに、もしかしたら私の方が峰倉先生を認知したのは早いですよ。

そうなんですか!?

私はパーティで紹介してもらうより前でしたから。コミケで峰倉先生のブースにお客さんが殺到してしまった時がありましたよね?

あの時はイベントが始まった直後に人の波にブースが呑みこまれてしまい、机ごと吹っ飛ばされてしまったんですよ。少し大変なことになりました。

それで私が行った時には既に大混乱でした。「凄い人がいる」と遠目で見ていました。挨拶どころではなかったですね。

イベントは今でも行かれているのですか?

私は全然…。

昔ほど参加者もリアル即売会を重要視していないんですよね。時代と共に変化しているのだと感じます。

配信などの影響もありますかね。

そうですね。お客さんもですが、クリエイターの意識も変わりました。私たちの時代は「イベントに出られなかったら死ぬ」くらいのテンションでしたから。

デジタルが主流になりましたが、漫画に対する姿勢は変わりましたか?

私はずっとアナログなんですよね。周りがみんなデジタルにいったくらいですかね。

峰倉先生は読者に対する姿勢が一貫していますよね。今の時代は、漫画家と読者の間もソーシャルコミュニティの時代なので、峰倉先生のように読者を大切にしている漫画家さんにとって、とても適合した時代だと思うんですよ。

でも峰倉先生の場合は、時代は追いつきましたけど漫画家と読者の距離が近づきすぎるということで自ら距離をお取りになっておいでですね。

そうですね、私は近づきすぎる前に離れるタイプです。

読者を大事にするという本質は、読者とお話ししたり、希望を叶えたりするのではなく「良い作品を描く」ということだけなんですよね。そういう意味で峰倉先生は、自分の読者を意識したうえで究極の漫画を作られているじゃないですか。作品に全てを懸けるというだけではなく、峰倉先生は常に読者をとても大事にしていると思うんです!

でも、読者のことを考えすぎて振り回されてしまう時もあるんですよ。「読者はこういうことを求めてないのではないか」と足踏みしてしまったり、「最近このキャラを描いてないから描かないといけないのではないか」と思ったり。そういう思いこみに振り回されてしまうのが自分の悪いところだと思っているので、なるべく読者を意識しないようにしているのですが、バランスが難しいですよね。それに、私自身も口うるさく「とにかくお客さんのことを考えて下さい」と編集部やメディア運営側に言ってしまうので、それが読者への押し付けになってないかなと考えることもあって…。

読者との距離感は常に難しいですよね。

私から見ると峰倉先生は完璧ですよ!

いやいや、何を言ってるんですか!

高河先生は「峰倉かずや論」ばかり話していないで、自分の話をしてくださいよ(笑)。

峰倉先生の大ファンなので語ってしまうんです、すみません!

高河先生は学生の頃から高いコミュニティ能力で様々な人をゲストに呼んで、豪勢な同人誌を作られていましたよね。

そんなこともしていましたね。同人誌に本格的に参入したのは高校2年生の時です。でもデビューしてからというもの、ずっと漫画を描いていました。本当に漫画を描くだけでしたので、つまらない話ですよ。

同人誌『夜嬢帝国』にて発表された「DARK・COLOR」(『高河ゆん漫画家30周年記念本 30 ――までだと思っていた道は、まだ先に続いている(といいな)』にて再録)より 同人誌『夜嬢帝国』にて発表された「DARK・COLOR」(『高河ゆん漫画家30周年記念本 30 ――までだと思っていた道は、まだ先に続いている(といいな)』にて再録)より
同人誌『夜嬢帝国』にて発表された「DARK・COLOR」(『高河ゆん漫画家30周年記念本 30 ――までだと思っていた道は、まだ先に続いている(といいな)』にて再録)より

高河先生は同人誌の作家から職業としての作家になったんですよね。だから峰倉先生に比べて、最初から読者との距離は近かったのではないですか?

はい。当時、私は読者を「仲間」だと思っていたんです。でも、それは私の勘違いで、私の場合は友達が全員描き手でしたので「仲間」なのだと思ってしまっていたんでしょうね。でも描き手はファンではないですよね。

それはそうですよね。でも、そもそも友達全員が描き手という環境が凄いですよ!

そう考えると峰倉先生とはいろんな意味で逆ですよね。

真逆ですね、私は作家さんとは全く交流を持たないというか、持ちたがらないタイプなんです。

漫画もあまり読んでいらっしゃらないですよね。

漫画家としてどうなんですかね…(笑)。

漫画を読まない代わりに吸収しているもの、影響されているものはありますか?

ずっと音楽ライターになりたくて、高校生の時はバイトで稼いだお金を全部CDに使っていました。たくさん働いていたのにお金がなくて、漫画を描くためのトーンすら買えなかったんですよ。ですから漫画を賞に応募する際にトーンの代わりに全部薄墨で描きました。一応入選はしましたが、その時の担当さんから「入選した時の賞金でトーンを買いなさい」と言われ、賞金をありがたくいただきましたが、結局CDを買ってしまいました!

どのようなジャンルのCDを買っていたんですか?

同系統ばかり聴いてしまうと知識も狭まるかと思い、見境なしに自分の感性を信じてジャケット買いをしていました。でも、それが当時の担当さんにバレて叱られてしまい、参考にと麻宮騎亜先生やCLAMP先生、岡崎武士先生のコミックスを渡されて、トーンの勉強をしました。

トーンをたくさん使う作家さんたちですね。

そうなんです。その影響もあって私の漫画はあんなにトーンが多いのだと思います。当時は「トーンってこうやって貼るんだ!」と素直に吸収していましたからね。

そこから入ったんですね。

「トーンってお金かかるな」と思い、それでお金が必要になったため同人活動を始めました。でも二次創作ではなく『最遊記』や『WILD ADAPTER』などのオリジナル作品を描いていたため、商業誌で連載が決まった時に同人誌はやめてしまいました。

「WILD ADAPTER」第1巻より 「WILD ADAPTER」第1巻より
「WILD ADAPTER」第1巻より

商業作家としてお金をもらえるようになりましたからね。

正直なことを言うと当時は同人活動をしていた方が収入が良かったのですが、やはり全国の本屋さんで売ってもらった方が読者の目にも留まりやすいですからね。

突然ですが、高河先生は引っ越しマニアですよね。

そうですね、今でも転々としています。

どうしてですか?

いろんな所に行きたいんですよ。

行動的ですね。

子供が生まれてからは遠くに行けなくなりましたが、仕事場の引っ越しはよくしていました。

お二人は「漫画家になって良かったな」と思うことってあります?

聞きたい! 私は既に答えが決まっているのですが、峰倉先生は何ですか?

決まってるなら言ってください (笑)。

いや、絶対に峰倉先生と逆だと思って。私にとってはとても良かったことですが、峰倉先生にとってはどうかな…。

そう言われると言いにくいですね(笑)。

では先に言いますね、私が漫画家になって良かったと思うのは、「漫画家の友達がたくさんできたこと」です。

あぁ、それは逆ですね(笑)。

でしょ? 漫画家でなければ漫画家の友達はたくさんできませんから。

本当に漫画家の友達がいないので想像もつかないのですが、漫画家同士でどのようなお話をされるのですか?

漫画の話はしますね。

自分の漫画の相談や、「こういう時どうする?」のような?

峰倉先生は真面目ですね! 大体他の漫画の感想が主ですよ。あとはここでは言えない話とか(笑)。

要するに漫画好きな友達ってことですよね。

もちろんです。ですから峰倉先生のような、漫画をあまり読まない漫画家さんは貴重なんですよ。ちなみに『鬼滅の刃』は読んでますか?

読んでないです…。

やっぱり!

高河先生は結構漫画を読まれていますが、読まないジャンルはあるんですか?

様々な漫画を読んできましたが、ギャグ漫画だけはセンスがないらしくて…。でもギャグと言って良いかわからないけど『銀魂』は面白いです。

逆に峰倉先生はクールダウンするために漫画を読むタイプなので、1話完結の作品は読まれますよね。

そうなんです、床屋さんや歯医者さんに置いてあるような漫画を好んで読みます。

峰倉先生が漫画家さんになって良かったことは何ですか?

うーん…、描いている時は楽しいですね。原稿の向こうにたくさんの読者がいると思うと楽しく作業できます。

同感ですね。やっぱり自分のためだけでは漫画なんて描き続けられません。

「LOVELESS」第12巻より
「LOVELESS」第12巻より

でも私、どこかの瞬間で、漫画家としての義務感なども全部取っ払って、ただただ手を動かして「うわぁぁぁ、楽しいぃぃぃぃ!」とトリップすることがあるんです。

私もなりますよ。「この線を描いていて気持ち良い」とか「色を塗って気持ち良い」とか。

いろんな段階でたまに来るんですよね。集中して盛り上がってネームを描いている時もあれば、作画中に急にトリップする時もありますし。

脳内麻薬的なものが?

恐らく(笑)。

絶対脳内麻薬ですよ。でもその感覚は不思議なことに、漫画を描く以外で感じたことがないんです。

たしかに、ないかもしれないです! よく登山家やマラソンランナーなどは極限を超えるとトリップ状態に入ると言いますが、その感覚に近いのかな。でも、漫画家はそんなに極限じゃなくてもそれが来るんですよ。

トリップ状態に入る条件とかはよくわからないんですけどね。

何でそれが発生するか全然わからないんです。本当に急に来るんです。

きっと何かがピタッとハマるんでしょうね。

私の場合、正気を失ったみたいに「楽しいぃぃぃぃ!」と無意識で言ってしまっているらしいです(笑)。机の向こうからアシスタントさんに「良かったですね」と言われて気付きました。

意識してその状態になってるわけではないので、人がいてもいなくても関係ないんですよね。

そうなんです。

トリップ状態と関係があるかわかりませんが、高河先生は作業に入る前にゲームをよくされていますよね。「これをやることによって脳が活性化する」と言っていましたが、実際に作業に着手するまでに何かルーティン的なものがあるんですか?

私もゲームはよくやります。「これで脳が活性化」や「これで集中力がアップ」などは全部こじつけですけど、それをやることで自分の中で暗示をかける意味もあるんですよね。

なるほど、自己暗示なんですね。

だって「漫画を描く」ってビックリするくらい面倒な作業じゃないですか。

過酷ですよね。描き始めたら24枚や32枚とページを全部埋めないといけないですし。漫画を作るというのはハードルが高いというか、しんどい作業ですよね。

描いても描いても終わらないんです。「まだこんなにある…」と絶望します。

実際「あと何コマ描くんだろう…」とかネガティブなことを思ってしまうと描けなくなりませんか?

ネームを描いた自分にキレる時がありますよ。「何でこのコマに主要人物8人もいるの!?」「このネーム描いたヤツ出てこい!!」と。理不尽ですね。

でもわかります(笑)。

「最遊記」第9巻より 「最遊記」第9巻より
「最遊記」第9巻より

鼎談の後編は12月9日公開予定! どうぞお楽しみに!!

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公開日:2022.11.11

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