高河ゆん先生 × 雪広うたこ先生
代表作
「LOVELESS」 言葉(スペル)で戦うラブストーリー!
代表作
「彼に依頼してはいけません」破天荒なバディのサイキック探偵ストーリー!
本日はよろしくお願いいたします!
こちらこそよろしくお願いします! 私は雪広先生のファンなので、作品を読ませていただいて、展示会にも参加させていただいています。
展示会に足を運んでくださったツイートを拝見した時は心臓が飛び上がりました!身に余る光栄です…!
――高河先生と雪広先生は今回、初対面でしょうか?
そうですね、雑誌上で作品を存じ上げているという形です。でも雪広先生には勝手ながら親近感があったんですよ。共に「雪広うたこ」「高河ゆん」と簡単な漢字とひらがなを組み合わせた名前なので。
高河先生に親近感を持っていただけていたなんて光栄です!
私は、キャラクター名や作家名といった、ネーミングセンスに注目してしまうんですよ。ですので雪広先生のセンスには惹かれるものがあって。
恐れ多い…。
絵柄の素晴らしさももちろんですが、雪広先生は言葉の使い方や、ひらがなの使い方などもセンスが良くて大好きです。
ありがとうございます! 名前を気にしていただけるなんてあまりないので、ビックリしました。
どうして「雪広うたこ」という名前にしたのでしょうか?
画数の縁起の良さと、漢字とひらがなで分けると読みやすいんですよね。
そうそう!
選挙ポスターで名前をひらがなにしている場合があるじゃないですか。それを見て印象に残りやすい方が良いなと思い、漢字とひらがなの組み合わせにしました。
なるほど。私もひらがなの使い方は結構気にしていますね。そもそも難しい漢字があまり好きではないので、「高河」と簡単な漢字にしました。
そうなんですね。
「雪広うたこ」という名前も、「歌子」や「唄子」など漢字の候補はあったと思います。その中でひらがなを選んだことに、センスの良さを感じますね。私は雪広先生のそのセンスが好きだなと思っていて…。名前についてこんなに熱く語っていると、まるでアホの子みたいですよね(笑)。
いえ、とんでもないです。本当にありがたいです…!
『彼に依頼してはいけません』に御堂眞矢と實弓という兄弟がいるじゃないですか。兄弟でとても難しい漢字を使っていますが、彼らの生い立ちやキャラクター性を考えると、この漢字になるのが必然なんですよね。
良く見て下さってる…!
ひらがなやカタカナでは当然ダメで、難しい漢字に加えて「弓」と「矢」が入っているのには、漫画のインテリジェンスを感じますよね。
褒められすぎてどうしよう…!
――雪広先生は『LOVELESS』を読まれていたのでしょうか?
世代的にも『LOVELESS』世代なので、もちろん存じ上げています。でも私が一番最初に読んだ高河先生の作品は『アーシアン』でした。漫画をアフレコするのが好きな姉の友達がいて(笑)。
友達を集めて漫画に声を当てるということですか?
そうです。子供の頃の話ですが、姉たちが『アーシアン』のアフレコをしている姿を見る、というのが最初の高河先生の作品との出会いでしたね(笑)。
そんな遊びがあるんですね、面白い!
でも当時の私は小学校低学年くらいでしたので、作品の内容を全く理解できていませんでした。のちに自分自身で漫画を描くようになって『LOVELESS』を読ませていただいて。ストーリー自体も素晴らしい作品なのですが、当時の漫画としては非常に珍しい印象を受けました。アニメーションを見ている感覚に近く、一コマ一コマにインパクトがあるんですよね。読んでいて「普通の漫画じゃない!」と感じました。
ありがとうございます…!
――好きなキャラクターはいらっしゃいますか?
私は背の高い女性が好きなので、羽渡ユイコちゃんですね。幼い頃からどんな作品においても、絶対に背の高い女の子に惹かれるんですよ。ですので背が高くて可愛らしく、雰囲気の柔らかいユイコちゃんはドンピシャでした(笑)。
わかる気がします。『彼に依頼してはいけません』だと、眞矢は鏡キズナより少し背が低いじゃないですか。私は背の低い男性が好きなんですよ。
おぉ!
眞矢はそれ程背は低くないのですが、背の高いキズナといつも一緒にいるので小さく見えるんですよね。その身長差が好きなんです。
たしかに、抱きしめた時に身長差があると萌えますよね。『LOVELESS』だと小学生の青柳立夏と大学生の我妻草灯なので、特に差があって。
そうですね。その二人は意識して身長差をつけています。45cmくらい違うんじゃないかな(笑)。
やはりそうなのですね! 二人が抱き合うたびに興奮していました。
雪広先生もやはり眞矢とキズナの身長は意識して描かれているのですか?
そうですね、身長差が少しでも出るように意識しています。
『彼に依頼してはいけません』を読んでいると、伏線や萌え要素が散りばめられているんですよね。そんな世界を違和感なく作られている雪広先生は、漫画のIQが高い証拠だと思います。
ありがとうございます…!
雪広先生は漫画を描き始めたのはいつ頃ですか? 子供の頃よくお絵かきなどされていたのでしょうか?
小学生校低学年の頃、絵日記漫画を友達とリレー形式で描いて交換していました。漫画というしっかりしたものではなく、自分たちで設定を考えて「今日の1ページは○○ちゃんが担当ね」という遊びですね。
楽しそう! 雪広先生はオリジナルの漫画を発表なさったのが割と最近ですが、理由をお聞きしても良いですか?
オリジナルを作る余裕がなかったというのが正直なところです。漫画家になって最初にいただいたお仕事がコミカライズで、何だかんだとしているうちに後回しになってしまいました。それに『魔界王子 devils and realist』は気づいたら10年近く描いていましたし(笑)。
わぁ、なるほど!
――原作付きの作品とオリジナルの作品とではプレッシャーなども違いますか?
『魔界王子 devils and realist』の場合は、常にコミックス1巻分くらいの原作を先にいただいていたので、資料の準備などにも余裕があって助かりました。世界観が特殊なので、ソロモンの話や、悪魔や天使たちの関係性など丁寧に調べないとわからないことがたくさんあるんですよ。
資料収集は本当に大変ですよね。
漫画を描くのにこんなに下調べが必要なのだと初めて知りましたね。逆に『彼に依頼してはいけません』連載開始当初は、他にさし絵などの仕事もしていたので、あまりにも凝った設定だと毎月の連載に耐えられないと思いました。ですので現代寄りで東京付近、と自分が連載できる範囲の設定にしています。
――東京を舞台にされた理由は、取材に行きやすいということでしょうか?
そうですね。渋谷や歌舞伎町などに行って、資料用に建物の外観や街並みの写真を撮ったりしています。今はこのご時世ですので、Googleマップなどネット頼りなところもあるのですが…。
写真などわかりやすい資料があると便利ですよね。
高河先生は資料用の写真を撮りに行かれますか?
ネームを描いた後に、必要な背景を後から撮りに行く感じですね。でも実際、連載中はそんな時間なんかないんですよ(笑)。
意外と『LOVELESS』は高河先生のご自宅の近所だったりします…?
そうなんです! 近所ばかりですよ(笑)。それに立夏たちの通う小学校は、娘がかつて通っていた小学校ですし。たくさん写真を撮らせてもらいました。
身近な所で資料を探されているのですね!
でも、小学校の中の写真を撮る機会は意外とないんですよ。保護者の内に撮っておいた方が良い(笑)。
たしかに(笑)。
――キャラクターの着る服などはどこからインプットされているのでしょうか?
主にネットを徘徊しています。今の時代、検索すればなんでも出てくるので手に入らない資料はほとんどないんですよね。ですので「何を探すか」という判断が一番重要なのかなと思います。当時、私は「小学生にビザールのような奇抜な服を着せてみたい」と頭のおかしいことを考えていて(笑)。
(笑)。
私は立夏に女の子の服を着せるのが好きなんです。ユイコは常にヘソが出た服で、これが現実だったら「親御さんは何を考えて小学生にこんな格好を…!?」と思われますよね(笑)
でも立夏くんのカラーイラストは、装飾がいつも可愛いですよね。アイドルみたいで素敵だなと思っています。
お恥ずかしい、趣味丸出しです…。
いえいえ、でもその気持ちはわかりますよ。可愛い子には可愛い服を着せたいです!
自分が着るわけではないので「着せたい服を描きたいように描く」といった感じですよね(笑)。
そうです、描いて可愛らしさの欲求を満たす感じです!(笑)
雪広先生の作品には、格好良いお兄さんがたくさん登場するじゃないですか。なので格好良いお兄さんに格好良い服を着せるという楽しさもありますよね。
そうですね。でも私が描くキャラクターはリアルな日本人体型ではないので、「こういう感じでスーツを着せたいな」と思って資料を見ても、違和感が出てしまうんですよね。
たしかに、みんな外国人モデル風のスタイルですよね。
そうなんです。ですので先ほど高河先生もおっしゃっていたように、服にしてもピンポイントで資料探しをしています。ネット検索するにもある程度知識が必要なんですよね。
本当にその通り。話は変わりますけど、キズナは可愛らしいところがあるじゃないですか。初めて『彼に依頼してはいけません』を読んだ時に、「眞矢の方が精神的にも大人なのかな」と思ったんですよ。でも読んでいくうちに「違う…! 」となって(笑)。
『LOVELESS』の草灯も意外とそんな感じがありませんか? 最初は「怪しい大人のお兄さん」という印象でしたが、話が進むにつれ彼の弱さを知って、守ってあげたくなる感じで。
彼はダメな大人でしたね(笑)。
立夏くんに「草灯のこと、抱いてあげて!!」と言いたくなっちゃいます(笑)。
それは描きたかったテーマだったんですよ。頼りがいがあってパーフェクトに見える大人が精神面では弱かったり、逆にすぐに泣いてしまう弱い立場の子供がまっすぐで格好良かったり。「子供の強さ」と「大人の弱さ」の対比を描いてみたいと思っていました。
立夏くんと草灯はストーリーが進むにつれて、二人の立場が逆転していくところが良いんですよね。子供が強いのは「世間を知らないから理想を言葉にできてしまう」というのがあると思うんです。その子が現実を目の当たりにしながら成長していくから、たとえ同じ言葉を発しても昔と今では言葉の重さが変わってくるんですよね。「真実を知っても、なおその言葉を草灯に与える」という関係性が素敵だなと震えました。
ありがとうございます!
――やはりそういう関係を狙って子供と大人の組み合わせを設定したのでしょうか?
そうです! ただ、立夏と草灯は小学6年生と大学2年生くらいなので、実はそこまで年齢は離れていないんですよね。でも小学生から見たら、やはり大学生は大人の世界の人じゃないですか。
わかります。私の勝手なイメージですが「ZERO-SUM」だと、20歳以上のキャラクターは大人という印象があります。
そういう意味ではキズナは大人グループに入りますが、可愛らしいキャラクターですよね。しっかりしているけど危ういというか。
たしかに(笑)。
私ね『彼に依頼してはいけません』のキャラクターの中で、色々な意味で一番強いのは八鳥さんなのではないかと思っているんですよ。喧嘩もメンタルも強いじゃないですか。本当に大好きなキャラクターです!
嬉しい…! 賢木蒼吾と八鳥の話を描きたいと思った時に、二人は男女の主従コンビにしたいと思っていたんです。
当たりでしたね!
同性同士の主従コンビは多いのですが、男女のコンビで女性のボディーガード役はなかなかいなくて。それで担当編集さんに「ボディーガード役を女性で考えているのですが…」と相談して、蒼吾と八鳥という主従コンビが生まれました。
あまり見ないコンビですよね。今どき主人に仕える女性ポジションとなると、メイドになると思うんですよ。
そうなんです。
でも八鳥さんはメイドでなく「あくまで執事なんだ」と。
よかった! こだわりを気付いてもらえてとても嬉しいです!!
『彼に依頼してはいけません』の中には様々な人間関係と組み合わせがありますが、やはり蒼吾と八鳥さんという組み合わせが特に好きです。
ありがとうございます! 蒼吾というキャラクターは下手すると嫌な人間になってしまうんです。嫌味や悪態をつくようなキャラクターは、読者からすると若干受け入れにくいというか。蒼吾を嫌われるキャラクターにしたくなかったので、八鳥には彼を窘める重要な役も担ってもらっています。
コンビのバランスは大切ですよね。
ここで八鳥を男性にしてしまうと、主人公のキズナと眞矢のコンビが薄くなってしまうという懸念もありました。蒼吾と八鳥の主従コンビにスポットが当たりすぎてしまうのは良くないと思い、調節するためにも女性にしたという理由もあって。それが上手くいったのであれば良かったです!
お世辞抜きで『彼に依頼してはいけません』のキャラクターはみんな好きなんですよ。蒼吾も気に入っていて、逆に「もっと嫌なこと言っていいよ!」と私は思っている程で(笑)。
本当ですか!
やはり嫌味ったらしいことや乱暴的なことを言ったりやったりしても、元々の性格に蒼吾の育ちの良さを感じます。良い意味でやりきれなくて、さらに八鳥が良い塩梅でコントロールしているというか。八鳥のおかげで蒼吾は前に進めるし、冷静にもなれるので良い関係ですよね。
気付いていただけて嬉しいです!
それにストーリーも進み、それぞれのキャラクターにも厚みが出てきたので、最初の頃に比べて人間関係がさらに面白くなっているんですよ。『彼に依頼してはいけません』は二通りの楽しみ方があると思っていて、一つが「ストーリーに注目して事件そのものを楽しむ」、もう一つが「キャラクターに注目して人間関係を楽しむ」。それに加えて絵も素晴らしいので、ケチのつけようのない素晴らしい作品なわけですよ!!
ありがとうございます、褒められすぎてどうしよう…!
コミックスは電子書籍で全巻買わせていただいたのですが、失敗でした。紙の特装版にしか収録されていないカラーイラストが見られないんですよ…!
そうなんですよね(笑)。
雪広先生の美麗イラストを見るために、絶対に特装版を買いなおしますんで!
いやいや編集部から送ってもらってください(笑)。高河先生は結構電子で買われることが多いですか?
いつでも読めますし場所を取らないので、最近は電子で購入していますね。でも結局は紙が良い!
常に新しい作品や情報を仕入れられていて、凄いなと思っています。高河先生は現在、原稿を描く時はデジタルなのでしょうか?
デジタルに移行しようとしているのですが、戸惑っていますね。
それではまだ仕上げのみデジタルということですか?
いえ、一応フルデジタルで作業しています。でも途中で謎のマシントラブルに陥ったりして、アナログのときよりも時間がかかってしまっていて…。
アナログの方が速く描ける感じですか?
今のところアナログの方が断然速いです。デジタルだと締め切り間際で一気にガッと仕上げることができないじゃないですか。
確かにデータ転送などタイムラグありますよね。私は逆に、デジタルの方が速いんですよね。アナログだとインクが上手く出ない時があって(笑)。
あとデジタルだと乾かさなくて良いし!
消しゴムで消さなくてもいいですし!(笑)
――雪広先生はデジタルですか?
ネームも線画も、仕上げも全部デジタルです。逆にアナログは全然描けなくて、一年に一度程度ですが色紙にイラストを描く企画があって、本当に大変なんです(笑)。
最初からデジタルですか?
連載開始からフルデジタルで作業していましたね。アナログだとインクが上手く出せなくて、思った通りの線が引けないんですよ。どれだけ引いても擦れちゃって、早いうちに諦めました。
――高河先生流のアナログのコツはあるのでしょうか?
コツかぁ…。そもそもアナログで描くことが好きなんだと思います。手が楽しいのかな? 丸ペンやGペンを使って、直接ペンにインクを付けて線を引くという作業自体が好きなんですよね。絶対にどちらかにしなければいけないというのはないので、アナログが好きな人は無理してデジタルに移行する必要もないと思いますよ。でもアナログからデジタルに変わると、描き心地に慣れるまで違和感がありますね。
描いた時の音などですか?
あとはペンの滑る感触とか。私は漫画を長年描いていて思うのですが、アナログであってもデジタルであっても、ある程度漫画を作る作業そのものが好きでないと、漫画家の仕事は辛すぎませんか?
そう思います(笑)。
縫物や編み物が好きな人が、針と糸を使ってモクモクと作業することが好きというのに近いのかなと思っていて。我々漫画家の場合は、何本もの線を引いて「描くことが作業として好き」という意識がどこかにあるのかな…と。
たしかに、私の場合は0から1を生み出すネーム作業は死ぬほど辛いのですが、下絵から絵を描くなどの単純作業は好きなんですよね。
ペン入れは写経みたいですよね。
まさにそんな感じです! 学生時代に工場のアルバイトをしたことがあって、リボンを結ぶだけの単純作業でしたが意外と楽しくて。
わかる! やはり単純作業をコツコツできる人でないと、漫画を描けない気がするんですよ。漫画は原稿を一枚仕上げるにしても何千、何万と線を描かなくてはいけないじゃないですか。
そうですよね、ペンで線を引くストロークを何万回も繰り返しますから。
――漫画を描いていて特に大変だったことはありますか?
大変だったことしかない…。時間が全くないんですよ。まぁ、私が時間をなくしている張本人なのですが(笑)。
――締め切りが迫ると、筆ペンのみで描くという噂を耳にしたのですが…。
え!?
そう、筆ペンは速いですよ。紙に引っかかることもないし、いちいち墨汁を付けなくて良いし(笑)。
筆ペンって……筆先が太いペンですよね…?
まあまあ太いです。
どうやって描いているんですか? 全く想像できない(笑)。
筆ペンの一番先は凄く細いじゃないですか。だから手首の力で細くしたり太くしたりができるんですよ。
えぇ!?
手首を浮かせて描くので、やりすぎると腱鞘炎になるみたいです。
逆に大変なのでは…。
力の加減は必要ですが、でも慣れてしまえば丸ペンよりも一気に描けるので速いんですよ。それに私は今まで腱鞘炎や肩こりになったことがないんです。
漫画家で珍しいですね。予防のために何か運動されていらっしゃるとか?
恐らく生まれつきの体質なのだと思います。ゲームのしすぎで肩こりにはなりましたが、今まで漫画を描いていて肩こりになったことがないですし、腕も痛めたことはないですね。
欧米の方は肩こりという概念がないという話は聞いたことがありますが、恐らくその類の話ではないですよね。ゲームでは肩こりする高河先生の体質は何なのだろう…(笑)。
ペンダコも全くないんですよね(笑)。
えー!? ペンの持ち方が柔らかいんですかね?
そうかもしれないです。だから漫画を描くのに恵まれた体質なのかな(笑)。
なんとなく描き方も関係ありそう! 高河先生の作品は、絵柄が全体的に柔らかい印象がありますよね。個人的に手塚治虫先生のようなアニメーションらしさを感じます。それに少女漫画特有の柔らかさとも少しニュアンスが違っていて、どちらかと言うと色っぽさを感じる曲線なんですよね。今のお話を聞いていて、きっと柔らかく描かれているからなのかなと思った次第です。
なるほど、言われてみればそうかも。でも目は悪かったんですよ。これで目が良ければ、体質的には漫画家としてパーフェクトだったな…(笑)。実際、目が悪いと描きにくいですよね。
近眼なんですか、それとも乱視とか?
近眼で乱視で、さらに老眼だから(笑)。デジタルに移行したことで、少しは作業が楽になったかなと。
拡大できますからね。
そうそう、でも拡大して作業するとキリがないんですよね。
そうなんですよ、拡大するとどこまででも描けてしまうんです。調子に乗って細かいところまで描きすぎると、逆に違和感が出てしまうし…。ちなみに『LOVELESS』の13巻はデジタルで作業されていましたか?
いや、アナログで描いた気が…。
そうなんですね、13巻だけペンのタッチが変わったように見えたので、もしかしてデジタルに変えたのかなと思ったのですが。
もしや締め切りギリギリで筆ペンだったとか? あり得る…(笑)。
えー! 全く筆ペンの感じがしないですね、違和感もなくて凄いです!!
持ち替えないでベタも塗れるし、筆ペンは本当に速いですよ!
インクも確実に出ますしね(笑)
――雪広先生は連載していて大変なことはありますか?
やはり何もないところから何かを生み出す、プロットからネームの段階が一番しんどいです。原作があった『魔界王子 devils and realist』ですら辛くて…。私は大学で映画制作を専攻していたので、映像や映画の作り方が染みついていまして。当たり前ですが、絵コンテとはまた勝手が違っていて。漫画はコマの大きさも形も決まっていない状態なので、毎回1ページずつデザインを考えるのに今でも苦労しています。さらに少女漫画は感情に寄り添ったコマ割りを求められるので、ページごとのデザイン性も重要視されるんですよ。今も色々な少女漫画を読んで勉強していますが、デザインはセンスを問われるところなので難しいですよね。
逆に楽しいと感じるところは、やはり絵を描く作業ですか?
そうですね、ペン入れは単純作業なので楽です。「ここの顔でキメて、読んだ人にキャーキャー言わせるぞ!」と読者の方々の反応を想像しながら描くのがとても楽しくて。
――読者の方々からの反応を強く意識されて描かれますか?
絵で魅せる場面は、メチャメチャ意識しています。
私は逆に最低限の意識はしますが、描いている時はそんなに気にしていないかな…。
そうなんですか!
私の場合ですが、自分の漫画に対して恐らく自分が一番の読者なんですよね。ですので「自分が満足できる作品を描きたい」という意識がどこかにあるのかもしれないです。
ネームを切る時も他人に見られているという感覚はなく?
そうですね、他人の目はあまり気にしていないです。
凄いなぁ…!
でも雪広先生の作品を読んでいると、読者の方々に対して強いサービス精神を感じますよね。
最初のコミカライズのお仕事が影響しているのかもしれないです。『うたの☆プリンスさまっ♪』という乙女ゲームで、主人公がイケメンの男の子たちと恋をするストーリーなんですよ。だから当時の担当編集さんにも「読者にキャラクターをアピールしてください!」と毎回指摘されて、今もその意識が残っている感覚があります。それが逆に不自由だなと感じることも多々あるのですけど…。
でもそのサービス精神は絵柄の華やかさにも繋がっていると思いますし、良いことですよ!
ありがとうございます…!
――それではお話変わりまして「ZERO-SUM」が今年で20周年を迎えました。ということは『LOVELESS』も20周年ですが、振り返ってみて長かったですか?
わぁ、本当だ!
おめでとうございます!
ありがとうございます。でも20年の内の三分の一くらいしか描いていないからなぁ(笑)。『LOVELESS』の連載を始める時に、担当編集さんから「高河先生は飽きっぽいから、コミックス5巻分の3年で終わらそうね」と言われていたんですけど、おかしいな…(笑)。でも「ZERO-SUM」の20周年はおめでとうございます! 20周年は本当に凄いことですよ、今の時代、20年も続かない雑誌の方が多いからね。
そうですよね。雑誌の名前を変更して続いている雑誌はありますが、名前も変わらずに残っているのは凄いですよね。
これから30年、50年、100年と行きましょう!!
行きましょう!(笑)
――高河先生は創刊当初から連載されていますが、その当時の率直な心境はいかがでしたか?
20年前の話ですよね、聞きたいです!
ちなみに雪広先生は20年前、何をされていましたか?
学生でした。映画を撮ったり、演劇サークルに入っていたので舞台をやったりしていましたね。
まだ漫画家デビューはしていない?
まだ全然です。
そっか、20年前かぁ…。うっすら皆さんご存知かもしれませんが「ZERO-SUM」の創刊は、そりゃあもうバタバタだったんですよ(笑)。
お話はうっすらとだけ伺っています(笑)。
漫画家さんも編集部さんも「何か漫画を描いてなんとか雑誌を出さなきゃいけない」という気持ちが大きかったですね。
どのようなキッカケで『LOVELESS』を「ZERO-SUM」の創刊で描こうと思ったのですか?
前作を描き終えて漫画連載をお休みしているときにふと思いついてしまって。担当編集さんに「キャラクターに耳と尻尾を付けてみたの。思いのほか行けそうな気がするからこのネタで描いても良いかな?」と電話で相談したんですよ。「エッチなことすると耳が取れるの」とも話していた気がします(笑)。
(笑)。
担当編集さんも最初はあきれた感じで聞いていたみたいですが、きちんと説明したら「やりましょう」と言ってくれて。それで、すでにアイディアが下りてきていたので、忘れる前に描くしかないじゃないですか。
そうですね、勢いは大事です(笑)。それでは「ZERO-SUM」の創刊に合わせて『LOVELESS』を作ろうと思ったわけではなかったのですね?
全然関係なかったですね。私が描きたい作品を勝手に描いて、それを載せてもらえるところに載せていただいたという感じです。
なるほど。
ただ今の担当編集さんとは長い付き合いなので、私の中で「一緒にやりたい」という気持ちが強かったんですよね。私はわりと担当編集を変えたくないタイプで、担当編集さんに「会社辞めるなら新しく会社作るといいよ」と言ってみたりしていたら、いつの間にか始まって、今に至るという感じです(笑)
まさかの高河先生からだったんですね(笑)。
当時は「新しい雑誌が作られる」なんて誰も信用してくれなかったみたいで、発売の告知をする前から雑誌のホームページを作って後に引けなくなっていたので、そのページに載せるためのイラストを描き下ろしたりしましたね、懐かしい。
凄い商法だな(笑)。
――まだまだ話足りないとは思いますが、最後にいつも応援してくれる読者の皆さんにメッセージをお願いします。
これからも末永く「ZERO-SUM」という雑誌を皆さんに愛していただきたいです。そしてその愛に応えるために、漫画家さんも編集さんもみんなで頑張って、みんながWINWINな関係でいけたら良いなと思います!
20年という月日は、生まれたばかりだった赤ちゃんが成人しているということですよね。「ZERO-SUM」を創刊当時から読んでいる読者の方々は、「ZERO-SUM」と共に20年の歴史を歩んできたということで、これまでに色々な出来事があったと思います。その中で「ZERO-SUM」が心の拠り所になっていたのかもしれないので、これからも同じようにたくさんの人々にとって寄り添える存在の雑誌であれば嬉しいです。作家さんも、読者の皆さんも、一緒に「ZERO-SUM」の歴史を歩んでいけたらと思います。これからも応援の程、よろしくお願いいたします!
今回の20周年記念対談としては十分お話できたと思いますが、雪広先生とはまだまだ話し足りないので、よろしければご飯とか一緒に行きましょう…! この続きを場外乱闘でお話ししたいです(笑)。
ぜひ行きましょう! なんというか、高河先生は私にとって漫画の神様で、違う世界の住人的な存在なんですよ。その先生に自分の作品を読んでもらえて、展示会にもお越しいただけて…、「私も漫画家なんだ」と実感できたのも高河先生のおかげです。本当に今回、高河先生と対談ができて嬉しかったです。ありがとうございます!
こちらこそありがとうございました! 漫画家ではありますが、読む方が好きで(笑)。雪広先生の作品は本当に好きで、いち読者として今後も応援しています。
ありがとうございます!!
公開日:2022.6.10